本紹介 ラグジュアリー LUXURY in fashon RECONSIDERED [ファッションの欲望]
私は、普通のデザイナーにしては、まあまあ本を持っている方だと思う。
ベスト3に入るほど好きな服の本、東京現代美術館で開催されていた「ラグジュアリー展」のカタログとして発行された本の紹介をしたい。
ラグジュアリー LUXURY in fashon RECONSIDERED [ファッションの欲望]
- 作者: 深井晃子
- 出版社/メーカー: 京都服飾文化研究財団
- 発売日: 2009
- メディア: 大型本
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この展示会は、 17世紀以降現代までのラグジュアリーとファッションにおける関わりを紹介している。私がファッションから受けた衝撃はいくつもあるが、この展示会は、そのうちの強烈な体験の1つである。中からラグジュアリーの意味について考えさせられる3つのドレスを紹介したい。
1つめ 贅沢は気の遠くなる残酷さ? インド?の玉虫の羽ドレス
昔からイヴニングドレスは数多くの職人の手を介して作成された。中でも、刺繍はその贅沢さを強調する格好の技法だっただろう。
このドレスに全体的に縫い付けられているのは何万匹もの玉虫の前羽。
たまにセミの抜け殻を頭につけたり、
ドレスに縫い付けたりする芸能人は見かけるが、これは抜け殻ではない。狂気の沙汰である。この何万枚もの玉虫の羽をむしる時の心の葛藤を想像すると気が遠くなる。しかし、実物はというと、実に可憐である。
ゴージャスというよりも、清廉潔白な乙女のようなドレス。その裏に隠れた無惨な仕打ちなど、微塵も感じさせないほどに。逆に、その残酷さが少女のような可憐さを裏付けているのかもしれない。
2つめ ラグジュアリーなテクニック マドレーヌ・ヴィオネのデイドレス
そのパターンが幾何学的であるヴィオネにしても、かなりシンプルな部類のこのドレス。この10年前まで、コルセットをしないなんてあり得ない時代だったことを考えると如何に革新的なシルエットだろう。
ところが、この服のすごいところは、拡大してもらえば分かる。
見頃に施されたのは、波線と直線の組み合わさった手縫いのピンタック。曲線のピンタック???物理的にできるんだろうか?ということが何重にも丁寧に、均等になされている。
更に凄いのが、そのピンタックに脇線が組み込まれているのだ。なので脇線が見当たらない。
こんなデザインを思いつくのは子供以外にあり得ない。服を知っている人には決して描けない机上の空論である。
それまでもマドレーヌ・ヴィオネの服とパターンが揃って載っている本を見て、凄さは十分承知しているつもりだが、この服の前で立ち尽くしたことは今でも鮮明に思い出される。
勿論このピンタックは、すでにロストテクノロジーだそうだ。
3つめ 着る人にとってのラグジュアリー バレンシアガのドレス
(写真なし)
この服は、ディオールのドレスと並べて展示されていた。
同じようにフィットアンドフレアのスカート部分のボリュームが豊かなドレスである。
しかしこの2つの大きな違いは、そのボリュームの作り方。
ディオールのこのシガールが、固い芯地や、コルセットやパニエに使われるボーンを使ってこのシルエットを作り出していたのに対して、バレンシアガは裁断や生地の張りのみで作り出しているのである。どちらが着る人にとってラグジュアリーであるかは明白だ。
服飾史において重要なディオールの隣にこれを並べて展示できることが凄いと、素直に感嘆した。
というわけで、服好きを自認する人には、ぜひ手にとって頂きたい一冊である。